第三者からみた二人。
まずは波江さん視点。
どうでもいいけど、波江さんとトムさんはなぜが『さん』付けになってしまう。
最近この家はうるさくてしょうがない。
声が、ではなく、音が、うるさい。
カタカタカタカタカタ
日に日に大きくなるキーボードを打つ音。
ガチャン!
まるで割るかのようにマグカップを置く音。
バサバサバサッ・・・・・ビリッ・・・・バササササ────
塔のように積んである書類を雑に扱い、結果、破れ、塔が崩れる音───そして最後は
「・・・・・・・・チッ」
雇い主の舌打ち。・・・・・・・もうこの流れいつまで続ける気かしら。
この人バカなのかしら。ああ、バカなのよね。だって自分がイライラしてる理由分かってないんだもの。
「浪江。散らばった奴集めて。あとコーヒー入れて。」
「嫌よ。コーヒーはともかく、それぐらい自分で拾いなさい。」
「・・・・・・・・・・俺、君の上司だよね?」
「たかがそれぐらいの事を部下にさせるなんて、器の小さい男ね。」
「・・・・・・・チッ」
舌打ちしといて自分で集め始めるとか・・・・本当、この人素直なのか捻くれてるのか分からないわ。
コーヒーを入れながらテーブルに置いてるカレンダーを見る。
もう家に閉じ篭ってから1週間、ね────
・・・ったく、どんだけ気が短いのよ。しばらく誠二に会ってない私を見習って欲しいものだわ。
「ねぇ、池袋行って来たら?」
今の空気、嫌でたまらないのよね。
「はぁ?別に今池袋に用ないし。」
「・・・あなた家に1週間も閉じ篭ってるけど。いいのかしら?情報屋がそんなんで。」
空気の入れ替えしたいのよ。
「心配しなくてもだーいじょーうぶ。知り合いがね、何かあったらちゃーんと教えてくれるから。」
「『やっぱり自分の眼で人間を観るのが1番だよね』って言ってたのはどこの誰かしらね?」
というか、知り合い、じゃなくて信者でしょそれ。
「・・・・波江サーン?君、さっきから何を企んでるの?」
「じゃあ簡単に言うわ。今のあなたすごくウザい。私仕事は静かにしたいの。だからしばらく出てって頂戴?」
「わー、直球ダネ。・・・・んじゃ、言われた通りにしよっかなー。」
「そうしてちょうだい。しばらく、というかなんなら終電逃しても構わないから。」
「・・・・なんかさー、俺最近『上司』としての威厳が無くなってきた気がするんだけど。」
「心配しなくても大丈夫よ。そんな物、元々無いもの。」
「・・・・・・・・・・・・・・・いってきまーす。」
雇い主が事務所兼自宅として使っているこの空間は、2人の時でさえ広く感じるのに、
一人だけだと余計に広く思えて・・・・・・・・・いつもならほんの少し空しくなる。
だけど今はそれが心地良い。
「どうせ、帰ってきたら喋り倒すでしょうしね・・・」
出て行く時、口だけ笑ってたわよ?
今日は久しぶりに汚れて、怪我して帰ってくるのかしらね。
頭の片隅でそんな事を考えながら、仕事を再開した。
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あれ、波江さんてばお母さん・・・・・?
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