01/28
Fri
2011
「明日?」
「うん明日!1日丸ごと!っていうのは、シズちゃん昼間仕事で無理だと思うから、仕事終わってから、」
「明日・・・あー、悪い。明日こっち来れねえ。先約があるんだ。」
「あー・・・そっ、か。じゃあしょうがないね!」
その時のアイツの笑顔が今でも引っかかってる。
1 / 28 PM5:30
「・・・雄、静雄!」
「へっ、あ、ハイ!何すか?」
「大丈夫か?今日なんかやけにボーっとしてっけど。」
「すいません、大丈夫っす。」
「そうか?ならいいけどよ。よし!社長に渡してきたし、今日はこれにて仕事終了!さ、行くぞー。」
「うっす。・・・そういや、これからどこ行くんすか?」
「えーっと・・・まー、ついてくりゃ分かるって!」
あー・・・ダメだな俺。何ボーっとしてんだ。
しょうがないだろ、臨也よりトムさんとの約束が先だったんだ。しかもトムさんに「どうしても明日じゃないとダメなんだ」と言われたら、断るわけにはいかねえだろ。日頃、お世話になってるんだから。
・・・そりゃ、何ヶ月ぶりに1日ずっと一緒にいれるって聞いた時は、ちょっと傾いたけど。
・・・・・あの顔もすげえ気になるけど!
でも男として、男の約束を破るわけには、
「───、しーずーお!・・・お前ホントに大丈夫か?もう、着いたぞ。」
「ぅえ!?あ、すんませ・・・ってあれ、ここって、」
「いいから、とりあえず中入れって!」
またボーっとしてて気づけばもう目的地に着いていたらしい。そこは俺がよく知ってる場所で。
目の前の扉の表札には『岸谷』と書かれている。
友人とはいえ人の家に無断で入るのは少し気が引けたが、トムさんに言われるまま、中に入る。鍵は開けてあった。
なんとなく、人がいる気配を感じる。だけど、暗闇な上、いやに静かで確証は得られない。そのまま中へ進み、リビングのドアを開ける。
その瞬間、
パンパンパーン!
『ハッピーバースデー静雄(さん)!!』
急に部屋が明るくなったと思ったら、あちこちからクラッカーの音と、色んな声が聞こえた。
び、っくり、した・・・・つうかはっぴばー・・・・あ。
「そう、か。今日俺誕生日だったのか。」
≪なんだ静雄。自分の誕生日をすっかり忘れてたのか?≫
「あはは、まったく静雄ってば相変わらず間抜けすいません全力で謝るので僕の胸倉掴んで拳振り上げるのやめてください」
「静雄、悪かったなー。なんかうやむやな感じな約束でよ。でもこういうのって事前にバラすってのもどうかと思ってな。」
初めて、だった。
家族以外に、しかもこんな大掛りな形で祝ってもらうなんて。
夢のようだとも思った。
ずっと憧れてた形が、目の前にある。その中に、俺がいる。
「その・・・皆、ありがとな。すげえ、嬉しい。すげえ感謝してる。」
・・・でも
「・・・こんな大掛りな事をしてもらって、すげえおこがましいって思うけど、悪い。俺、行くとこあんだ。すげえ、勝手だけど、後は俺抜きで楽しんでくれ。」
そう言って、俺は皆に深く頭を下げ、玄関に戻っていった。
「は、え、ちょっ、静雄!?この主役って君なんだよ!?その主役が何処行くの!?」
何処かなんて決まってる。
「俺が1番祝って欲しい奴の所!」
1 / 28 PM6:50
最近貰った、真新しい鍵を使ってドアを開ける。
リビングに入り、電気を点ける。まあ、外から見た時に暗かった時点でそう思っていたが、やはり誰もいなかった。
まあ、約束を取り付けなかったのは俺のせいだからな・・・
いなくても文句は言えない。けど、もしかしたら。そう思って寝室の扉を開けた。
・・・・いた。広いベッドに小さく膨らみ。きっと臨也だ。
「・・・・臨也。」
声をかけたら、膨らみが少し揺れた。そのまま進み、その膨らみの、・・・臨也の隣に座った。
おそらく背中であろう部分を撫でる。そうするとまた揺れた。
「なあ、臨也。俺今、すげえ調子こいてる。」
「・・・・・・・・・・・」
「もしかして、ここ最近臨也が料理の本とか菓子の本をガン見してたのとか、今日1日空ける為に2週間くらいすげえ働いてたのとか、・・・・・今日、自分よりあいつらを優先したのとか。全部、全部、ここ最近お前が頑張ったのはもしかして俺の為じゃないかって、俺は今すげえ調子こいてる。・・・もしかして俺って」
池袋からここに来る間、反省したのは最初だけ。考えていくうちにそんな調子こいた考えに行き着いた。
「俺って、すげえ臨也に愛されてるんじゃねえか、って。」
そう言った瞬間、臨也がガバリと勢いよく起きた。こころなしか目が少し潤んで見える。今の顔もすぐ泣きそうな顔をしている。
「そうだよっ・・・!シズちゃんはどうしたら誕生日喜んでくれるのかなってずーっと考えて、考えて考えて考えてようやく計画立てて・・・その考えた計画が全部無駄になっても、・・・たとえ祝うのが俺じゃなくても、それでもシズちゃんが笑うならいいやって思うくらいシズちゃんが好きだよっ・・・!」
「臨也っ・・・・」
思わず抱きしめた臨也の肩は少し震えていて、もしかしたら泣いてるのかもしれない。でも俺はそれを気にする事が出来なかった。
自分が泣きそうなのを堪えるのに必死だったからだ。
「・・・・シズちゃん、今何時?」
「わかんねえ・・・たぶん7時くらいじゃね?」
「・・・・どうしようシズちゃん。俺も調子乗っちゃってるみたい。こんな早い時間に来るなんて、もしかしてパーティーそっちのけで俺に会いに来てくれたのかな、とか思っちゃったよ。」
「・・・・・その通りだよバーカ。手前ももっと調子こいちまえ。」
それからしばらく抱き合ったままでいたが、『ぐぅぅぅぅぅぅ・・・』というなんとも色気の無いお互いの腹の虫に邪魔をされて、ようやく体を離した。
「・・・なあ、今から夕飯作れるか?」
「え、作れるは作れるけど・・・でも普通の夕飯になっちゃうよ?」
「構わねえよ。」
普通でも何でも、手前の作ったのって全部美味いし。と言ったら、なぜか顔を赤くして「バカじゃないの!」と言われた。なんでだ。俺は変な事を言ったつもりはねえ。
寝室から出る時、臨也は振り返り、俺に向かって言った。
「誕生日おめでとシズちゃん!大好きだよ!!」
そんな事をそんな滅多に言わない「大好き」をつけて、しかもそんな可愛い笑顔で言われたら、誰だって夕飯出来るまでベッドで悶えると思う。仕方ないと思う。
同時に、俺は臨也にありがとうとか感謝するどころか、また自分のことを考えていた。
「ああ、俺生まれてきて良かった。臨也に、皆に会えてよかった」
────HAPPY BIRTH DAY SHIZUO!!