10/25
Mon
2010
布の擦れる音がする。
「ん~・・・・」
目が覚めた、というより意識が覚醒した。と言った方がいいだろうか。
身体はまだ睡眠を欲しているようで、瞼が重く感じ、なかなか目が開かけない。
やっぱりさすがにこの時期になると、裸でいるのは寒いなあ。
そう思いながら右手を横に伸ばした。
相変わらず目を閉じたままで。
布の擦れる音。
触れたのはベッドのシーツで、そこにはもう彼女はいなかった。
「あら、起きたの?」
少し遠いところから声がしたから、どこにいるのかと目をゆっくり開けてみる。
彼女は、波江さんは、既に着替え始めていた。
次に時計を見れば・・・・・・・・いつも起きる時間より大分、というか全然早い。
「・・・・・・いつもより起きるの早くない?」
「早く目が覚めたのよ。」
「身体、辛くない?大丈夫?」
「・・・・・・・・あなたが言うと虫唾が走るから止めてくれない?」
「あは、ひっどいなぁ。」
波江さんとこういう関係になったのはいつからだっただろうか。
波江さんを雇い始めてからわりとすぐだった気がする。
あまり覚えていない。
俺からなのか、波江さんからなのかも覚えていない。
いや、覚えていない、というより、覚える気が無かった。という方が正しい。
たぶん波江さんもそうだろう。
それくらい2人にとってこの行為は些細なことだった。
「せっかく今日休みにしたんだから、もうちょいゆっくりすればいいのに。」
「だからこそじゃない。休日まであなたの顔を見なくちゃいけないなんて、冗談じゃないわ。」
「・・・・・・・・波江さん、社交辞令って知ってる?」
「知ってるわよ?付き合いを円滑にするために使うのよね。でもあなたと私の関係を円滑にする必要が何処にあるのかしら?」
「ですよねー。」
「それに今日は誠二に会う予定なの。こんな格好じゃ、会いたくても会えないわ。」
それ、会うっていっても一方的に、だよね。
と言うべき所を
俺は
「ねえ、君のその感情の中の1%くらい俺になる可能性はある?」
と、バカなことを聞いた。
彼女は一瞬驚いたように見えたが、すぐにいつものように淡々と答えた。
「あなたも知ってるでしょう。私の中は誠二だけよ。誠二しか許されないの。それが他人、ましてやあなたなんかがそこに入ってくる可能性なんて1%も無いわ。」
身支度をしながら、淡々と。
「まあ、毎日っていっていいほど、波江さん俺に『死ね』って言ってるもんね。」
「だって早く死んでほしいもの。あなたの死なんて、泣くどころか私の日常に何の支障もきたさないわ。」
「・・・・ですよねー。」
「何なのよ急に。」
「んー、ただの世迷い言。」
「あっそ。じゃあ私もう行くから。」
「はいはい。気をつけてねー」
ホント。俺急に何言い出してるんだか。
最近仕事ばっかりで、波江さんにしか会ってなかったからかなー・・・
疲れてるんだな、うん。
「・・・・・ああ、でも」
「んー?」
ドアを開ける音と同時に波江さんの声が聞こえた。
というのも、今の俺は波江さんの方を見ていなかったからだ。
まだ疲れが取れてないと思い、二度寝しようとベッドに突っ伏していた。・・・・・っていうか、まだ全然朝早いし。