07/21
Wed
2010
はじめて 自分から告白した。
はじめて 死んじゃうかと思うくらいどきどきした。
はじめて ずっと一緒にいたいって思った。
はじめて 理性を 手放した
「シズちゃん、俺シズちゃんが好きだよ。」
「・・・・あ?」
いつもの殺し合いの最中だった。
どうして急に言っちゃったのか自分でも分からなかった。ずっと好きだったから、というよりきっと彼の周りに人が急に増えたから無意識焦ったんだと思う。
「っだからあ!俺、シズちゃんの事好きになっちゃったの!大好きなの!友達とか人間だからとかそういう意味じゃなくて、れんっ、れんあい、的、な・・・そういう意味で好きなの!!」
「・・・・・そうか。じゃあ付き合うか。」
「へ?」
「俺だって、・・・手前の事がずっと好きだったんだよ。だからっ・・・つ、付き合え!!」
いや、告白で命令形っておかしいでしょ。
せめて「付き合ってくれないか?」とかって聞けよ。・・・いや、その前に俺から気持ち言ったんだからシズちゃんから言うのおかしくない?
って言いたかったけど、あまりにも信じられなくて、・・・嬉しすぎて、
「うん・・・・」
とつまんない返事しか言えなかった。
それからはまるで嘘みたいだった。
まず2人きりの時間ができた事。その時間が増えていくにつれ喧嘩の回数が減っていった。
とはいえ人前では・・・誰にも内緒にしていたから、今まで通りにお互いナイフと標識を振り回したけど、2人きりの時は標識を振り回していた腕は、それを握っていた手は、俺の頭を撫でてくれたり、手を握ってくれたり、抱きしめたりしてくれた。
そして────俺に笑ってくれた。
今まで見たことなかった、というより見せてくれなかった笑顔を俺に向けてくれるようになった。
手を繋ぐとか、キスするとか、それも嬉しかったけど、正直それが1番嬉しかった。・・・・1番期待していなかったことだから。
ねえ、シズちゃん。俺本当に嬉しかったんだよ。幸せだったんだよ。
だけど、それは本当に嘘だったんだね。
++++++++++++
それは雨が降りそうな日だった。
「あ、運び屋」
≪ああ、臨也。どうした?≫
「ちょっと新羅に薬をもらいにね。」
≪薬・・・なんだ、またお前眠れなくなったのか?≫
「違うよ。ちょっと助手がね、最近眠れないらしいから、もらってきてあげようと思って。」
≪そうか。・・・臨也は最近調子良さそうだな。前はしょっちゅう新羅に薬をもらいにきてたのに。≫
「ああ。そういえばそうだね。うーん、最近自分でもビックリするほど寝つきが良いんだよね。最近充実してるからかな?」
≪・・・・あんまり悪さするなよ≫
「・・・ちょっと、それどういう意味?」
≪冗談だ。私は今から仕事に行くが、ゆっくりしていくといい。≫
「はーい。行ってらっしゃーい。」
セルティに言われて初めて気づいたけど、そういえば最近寝るのに薬を頼っていない。ま、今までずっとモヤモヤしてたから余計に眠れなかったんだろうな。
今は・・・やめとこ。これ以上言ったらなんかもうただの恥ずかしい人だよ俺!
照れ隠しにドアノブを握ったら簡単に開いた。
「あれ、開いてる。まったく、無用心だね新羅は。しーん、・・あれ?」
玄関に見慣れた靴が二足。一つは新羅で、もう一つは・・・シズちゃんだ。
珍しく怪我でもしたのかな?ま、どうせ大したこと無いだろうけど。
そんな軽い気持ちでリビングに向かっていった。
だんだん聞こえてくる2人の話し声。
『どう?臨也とはうまく言ってる?』
『ああ、まあ、な。』
うまく、って、何、シズちゃん新羅には話してたワケ?俺には誰にも言うなって言ったくせに!だから俺、新羅にも言わないでおいたのに!
『まあ、まさかあの臨也が告白してきたっていうのは正直ビックリしたけど、でもよかったじゃないか!臨也付き合ったことで君は求めていた平穏を手に入れられた。仕事は・・・まあ仕方ないとしても、これで今までの暴力にまみれた生活から大分離れることができたと言う訳だ。』
『ああ、そうだな』
・・・・・・・・おか、しい。
俺が思っていたのと何かが違う。それじゃあまるで、
『で、どうするの?』
『え?』
『いや、いくら平穏を手に入れたからといって好きでもないのに付き合い続けるなんて、静雄は苦じゃないのかい?』
『ああ・・・・どうせ臨也がすぐ飽きるだろ。あいつは本気じゃないだろうし。』
────ああ、そうか。この恋は、最初から
ガチャ
「!いざっ、」
「ふーん、シズちゃんが俺と付き合ったのってそういう理由だったんだ。まあ、普通考えてみればそうだよね。高校の時から『死ね、殺す』って言ってたもんねえ。・・・好きになるはずないって話だよね。」
「臨也、話を聞いてくれ」
「いいよ、別れようかシズちゃん。どうせこんな関係続けても不毛なだけだし。・・・そんなに言うならもう池袋にも来ないであげるよ。じゃあね、シズちゃん。」
「ちょ、待てよ臨也!!」
あーあ、この素敵で無敵な情報屋、折原臨也がなんたる失態だ。
こんな簡単な事に、つうかあの単細胞に騙されるなんてなにやってるんだ。
・・・それだけ浮かれてたってことか。まったく、バカじゃないの。
そう思いながら新羅のマンションのエントランスから外に出ようとしたら後ろから腕を引っ張られた。
「・・・何」
「待てよ臨也!俺の話を聞けよ!」
「話?話ならさっき聞いたけど?・・・まあ偶然とはいえ盗み聞きみたいなもんだけど。あれが事実なんでしょ?」
「だからそれは!」
「じゃあ違うの?」
「ち、がわなくねえけど、でも」
「シズちゃん」
「・・・なんだよ」
「俺、こんな仕事してるし、こんな性格だし、普段から「人ラブ!」って言ってるから本気じゃないって思われたかもしれないけどさ、
俺、本気でシズちゃんが好きだったんだよ?」
「!いざ」
「さよなら」
ああ、いっそのこと顔ブン殴ってやればよかったかな
それともいつものようにナイフで刺してやればよかったかな
あ、やっぱダメだ。そうなると、シズちゃんに顔を見せなくちゃならない。
泣き顔なんて死んでも見せてたまるか。
歩いていくうちに雨が降り出し、駅に進むにつれて雨は段々激しくなっていった。
ああもうホント馬鹿げてる!
向こうからの愛情は全く無かっただけじゃなくて、俺の想いも全く伝わってなかったんだって!
あーあ、ホントに、もう、
「ひとりよがりにも程があるだろ・・・・」
雨はしばらく止みそうになかった。