07/18
Sun
2010
初めて俺の携帯に女から電話が来た。
『今すぐ臨也の家に来て頂戴。いいわね?』
名も名乗らず、とんだ失礼な奴だが、逆らえなかった。・・・電話越しでも威圧感て伝わるもんなんだな。
+++++++++++
で、大人しく臨也の家に来て確信した。やっぱ電話越しより本人を目の前にした方が威圧感は半端無いと。
「ちょっと、コレはどういうことなの?」
入って早々、俺にそう言いながらそいつは後ろを指差した。その先には腕に包帯を巻いた臨也がいた。
確かにその怪我は俺が標識か何かを当てたんだよな。
ああー・・そうか。この女は臨也に怪我させた事を怒ってんのか。
「どういうことって、ノミ蟲が池袋に来るのが悪ィんだろうが。」
「喧嘩した原因なんて聞いてないわ。私が聞いてるのは、どうして臨也が怪我してるのかって事よ!!」
「な、波江さん落ち着いて。」
と臨也は興奮しだしたその女に、おそるおそる声をかけた。・・・つうかコイツがおどおどしてるとこなんざ初めて見た。ふうん、コイツそんな顔もするんだな。
じゃなくて、
「あぁ!?そいつの怪我は俺が悪いっていうのかよ!?」
「相手があなたなら他に誰が悪いっていうのよ!」
「ノミ蟲自身だろうが!」
「でも実際怪我したのはあなたが標識をブン回したからじゃなくて!?」
「う・・・っでもそれは、」
「もし臨也の顔に傷が残ったらどうしてくれるのよ!」
「だーかーら!・・・・・・あ?」
ん?なんかおかしい。こいつは今何て言った?
「えーと、聞くがお前が怒ってるのはノミ蟲の腕の怪我だよな?」
「そんなのどうでもいいのよ!問題は臨也の顔のき、ムグッ」
「も、もうやめて波江さん!!何だか庇われてる俺が恥ずかしくなってきたー!!」
そう言いながら女の口を手で塞ぐ臨也の顔をまじまじと見る。やっぱ綺麗なツラしてやがる・・・じゃなくてよく見ると右頬に絆創膏が貼ってあった。他に顔の怪我は見当たらない。
「お前、顔に怪我してたのか・・・」
「えーっと、シズちゃんが投げた標識を避けた時にちょっと擦ったんだよね・・・それだけ。」
「・・・そうか。それは悪かったな。」
謝るつもりなんて少しも無かったが、顔に傷が出来たなら話は別だ。・・・・俺だってコイツ・・・の顔は気に入ってるんだ。
俺自身言ったことに少し驚いてるんだ。臨也が驚くのも無理なかった。
「は!?え、えええ!?何でシズちゃんが謝っ・・ん?でもシズちゃんが悪いからいいのか・・・あれ?まあ、いいや。とにかくシズちゃん謝ってくれたし!もういいでしょ波江さん。」
「っ私は!」
臨也が口から手を離した途端女は臨也と向きあい、と同時に両手で臨也の顔を抑え、顔を近づけた。
って、おい!その距離はヤバいだろ!何する気だよ!?
そう思ってこいつらを引き離そうと手を伸ばした時、女は臨也に向かって言った。
「私は、たかが擦り傷だろうが何だろうが、あなたに傷ひとつでも作ってほしくないのよ・・・!(※顔面に)
しかもその傷が私がつけたならまだしも、他人がつけた傷なんて許せるわけないじゃない!(※顔面の)」
あれ、最後の括弧内が聞こえたのは俺だけか。今すげえカッコいい事言ったけど、なんか台無しになったと思うのは気のせいか。
・・・どうやらそうらしい。臨也の赤くなった顔を見てそう思った。
「な、なみ、波江さん!やだ、超カッコいい!!大好き!」
「っな!?」
「あらそう。ならもっと自分(の顔面)を大事にしてちょうだい。」
「うん!うん!大事にするよ!!」
「だ、騙されてるぞ臨也ァ!」
そいつ顔面のみの心配しかしてねえぞ!お前、自分の腕を見ろよ!そっちの方が怪我でけえんだぞ!!
と言う前に臨也に遮られた。
「そんな事ありませんー!波江さんは俺のこと心配してくれてるの!つうか、シズちゃんもう用済んだでしょ?早く帰りなよ。」
「あ?元は手前等が、って押すなコラァ!!」
臨也はそう言って俺の背中を押しながら玄関に向かった。
なんだよ、手前、さっきと態度まるで違うじゃねえか!・・・俺とアイツに対してまるで違うじゃねえか。
「シズちゃん。」
「あんだよ」
「波江さんにはああ言ったけど、俺、あの」
「・・・安心しろ。手前が池袋に来たら容赦なくぶっ殺してやる」
「!!ふふ、それはこっちのセリフだよーだ!」
「・・・・その口調やめろ」
つうかその顔を見せるのもやめろ!ぶっ殺させるって聞いてう、嬉しそうに笑うんじゃねーよ!!
・・・期待するだろうが!
「っいざ」
「じゃーねシズちゃん!また今度!!波江さーん、お腹すいたー」
バタン
・・・一方的に呼び出して、一方的に追い出すとかいい度胸してんじゃねえか臨也君よぉ?
手前、今度会った時覚えとけよオラァ!!
───と意気込んだものの、目の前の扉をブチ破る力は今の俺には無かった。