09/13
Mon
2010
それは高校3年の時の話。
とても単純な話で、臨也が不良に囲まれているところを俺が助けた。それだけ。
だけど臨也だけ他の奴等と違った。
俺は昔からそういうのを見ただけでキレてしまい、しかも力をうまくセーブできないおかげで、やりすぎて助けたはずが逆にそいつにも怖がられてしまうのが当たり前だった。
臨也の時も、気がつけば不良共は皆倒れていて。臨也も今までの奴等と同様、その場に立ち竦んでいた。
ああ、またやった。きっとこいつもビビって逃げるんだろうな。
そう思っていても、声をかけないわけにはいかず、仕方なく声をかけた。
「おい、大丈夫か」
「・・・・・い」
「?おい、ホントにだいじょ」
「すごい!正義の味方みたいだった!!カッコよかった!」
・・・え
「・・・・あ?」
「へ?・・・・!じ、じゃなくて!!ありがとうございました!それじゃ!!」
「あ、おい!」
そう言って臨也は走って行ってしまった。
そんな事を言ったのは後にも先にも臨也だけだった。
+++++++++++++
「・・・忘れられるわけないじゃん。だってシズちゃんが初めてなんだよ?」
「なに、が」
「・・・・・・はじめて、本気で不良、っていうか喧嘩してる人をカッコいいって思ったの。せ、・・・・・・・・せいぎのみ、みかた、みたいって思ったの。」
臨也は俺のほうに向き直って話し始めたが、腕を離す事が出来なかった。
離したら、今のやり取りを無かったことになりそうだったから。
「んだよ・・・手前、今までそんな素振り見せなかったじゃねえか。」
「だって、シズちゃんは覚えてないと思ったから・・・っていうか!シズちゃんだってそんな素振り見せなかったじゃん!やっと会えたと思ったら、ガンとばしてくるし!」
「あ゛ぁ!?そりゃ手前が先にムカつく態度とってきたからじゃねーか!」
違う。
「はぁ!?シズちゃんが先に仕掛けてきたんでしょ!?」
「手前が話しかけてきたのが先だ!」
違う、言いたいのはそんな事じゃなくて、
「っていうかシズちゃんはどうして覚えてたのさ!」
「!そ、れは・・・・」
「・・・・どうせ、変な事言う気違いな奴だって思ったんでしょ。」
「違う!・・・まぁ、確かに珍しい事いう奴だとは思ったけどよ。気違いとか思う前に・・・・う、嬉しかったんだよ。だから覚えてた。」
「・・・・・・・そ、そう。」
ちくしょう、臨也が顔赤くするから移ったじゃねえかよ・・・まだ言いたいのこれだけじゃねえのに。
「それ、で・・・・それがずっと忘れられなくて、ずっと手前の事気になってて、」
なんとなく、ここで言わないと駄目だと思った。
「たぶんその時から」
ここでうやむやのままにしておいたら、ずっとそのままになる、と。
「俺、手前の、臨也の事が、
「おーい、静雄ー。午後の仕事再開すんぞー」
そのまま、に、・・・・
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・あれ、まだ終わってなかったか?」
「・・・・・・・いえ・・・・今行きます。・・・・・・じゃあ、」
「あ、うん・・・・」
ようやく臨也の腕を離した。・・・すごく名残惜しかったけど。
「・・・・あ、あの!」
途端、今度は臨也が俺の袖を掴んできた。
「ま、まだシズちゃんから聞き忘れた事があって・・・・シズちゃんもう少しお借りしていいですか?」
「!!」
「・・・・えーと。あ、そーなの?いや、構わねえけど。じゃあ、静雄終わったら電話してくれ。」
「あ、う、うす!」
そう言ってトムさんはさっさと言ってしまった。・・・・警官の説得力ってすげえ。
じゃなくて、
「・・・話、まだあるんだよね?」
「!お、おう!!」
臨也に引き止めてもらって。
トムさんにも迷惑かけて。
・・・まあ言い直すとか若干恥ずかしいけど、ここまでしてもらったんだから、もう言うしかねえって話だよな。
「俺、臨也の事が─────」
++++++++++++++
それから。
「ぅおおおおらああああ!!」
ガッシャーン!!
ピピーーーーーッ
「こおーーらあーーー!そこ自販機をブン投げなーーい!!」
若い男の雄叫び。
何かの破壊音。
けたたましい笛の音。
警察官の怒号。
この一連の流れは相変わらずで。
変わったことといえば、
「ホラ、交番行くよ」
「おう。」
喧嘩人形が騒ぎを起こした後必ず交番に行くようになったことと、
(ちなみにその行動によって喧嘩人形の噂に拍車がかかったのは言うまでも無い)
「今日は夜までなのか?」
「ううん、今日はもうすぐ終わりだよ。」
「ん。じゃあ、ここで待ってる。」
「そ?じゃあもう少しだから待っててね。」
「おう」
・・・・喧嘩人形が忠犬ハチ公になりつつある事だった。